秘密

秘密の通路を使って、この場所から出て行くこともできる。
だが、それではいけないと思った。
この場所は、俺が生まれ育った家だ。だからこそ、きちんと自分の口から伝えなければならないだろう。
俺は意を決して居間の扉を開ける。そこには、いつも通り母さんと父さんの姿が見えた。
そして、二人の視線もこちらを向く。
心臓が激しく脈打っているのを感じた。逃げ出したい気持ちもあるけれど……ここで逃げたらダメなんだ! そう自分に言い聞かせてから口を開く。
「――ただいま」
自分でも驚くほどに小さな声だったと思う